東京大学の学部入学式での上野千鶴子さんの来賓祝辞に心を打たれました。
この記事は朝日新聞デジタルでとりあげられていたのでご覧になっている方も多いかと思いますが、私は有料会員ではないので朝日新聞デジタル上では全文が読めませんでした。
それでも、この記事の中でピックアップされている部分が大変共感できるのです。
「世の中には、頑張っても報われない人や頑張ろうにも頑張れない人、頑張りすぎて心と体を壊した人たちがいる。恵まれた環境と能力を、自分が勝ち抜くためだけに使わず、恵まれない人々を助けるために使ってほしい」と新入生に訴えた。
<中略>
上野氏はそのうえで、新入生に向かって、「頑張っても公正に報われない社会が待っている。頑張ったら報われると思えることが、恵まれた環境のおかげだったことを忘れないでほしい」と呼びかけた。
社会で成功した所謂『勝ち組』の人がよく使う言葉に、『自己責任』とか『自分の頑張りで得た果実は自分のもの』というものがあります。
でもこのメッセージにあるように、頑張って報われることのできた能力は自分だけのものではないのです。
特に東大に入るような優秀な人は、努力を支えてくれる環境があったはず。
さらに入学後、東大の教育環境にかかる費用は学生一人当たり年間約500万円とも言われているそうです。
これらによって育まれる素晴らしい資質・能力を是非世の中のために還元していただきたいと思うのです。
ちなみに、上野千鶴子氏の祝辞全文は東京大学のwebサイトで読めます。
大学のサイトで全文公開されているのに、朝日さんではなぜ有料会員限定記事なんでしょうね。
平成31年度東京大学学部入学式 祝辞
先般明らかになった医学部入学に関して女子が不当な扱いを受けていた問題にはじまり、ご自身の切り開いて来た学問、東大が変化と多様性に開かれた大学であること、そして大学での学びとは何か、学生たちに大学で何を身につけて欲しいのかということを明快に語られている素晴らしいメッセージです。
総長の式辞も掲載されていたので読みましたが、こちらはありきたりで長くて読むのが苦痛と感じるほど。
平成31年度東京大学学部入学式 総長式辞
ざっくりした印象としては『東大には素晴らしい教育環境があり素晴らしい人材を輩出してきた。君たちもこの環境を生かしてさらにビッグに育ってくれ…』というもの。
もちろんこれから社会へ羽ばたく若者たちにこれからの世の中をどのように行きて行くのか、社会でどのような役割を果たすべきなのかというメッセージではあるものの、学校の名前を入れ替えれば他の大学でも高校でも通用するような感じでなんとも官僚的。政治家の選挙演説みたい。
経歴を見ると、東大で育ってそのまま学長まで上り詰めた生え抜きなんだね。
なるほど、こういう式辞になるのも理解できるわ。
一方上野さんの『東大に入学した人材』だからこそ考えなくてはいけないことや背負うべき役割があるということ、また大学で学ぶとは、東大で学ぶとはどういうことかを強く訴えるメッセージは、かつてスティーブ・ジョブズがスタンフォード大の卒業式で行ったスピーチに並ぶ名スピーチだと思います。
「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 (米スタンフォード大卒業式(2005年6月)にて)
このような聡明な女性の正論を苦々しく思う方も多いかもしれませんが、感性の柔らかい若い方にとっては心に響くものが少なからずあったのではないでしょうか。