水戸芸術館で時々企画される気軽なクラシック演奏会『♪ちょっとお昼にクラシック♪』。
今回はバッハの時代に生まれたジルバーマン・ピアノの忠実な復元品を使用した演奏を聴いてきました。演奏は、バッハの鍵盤音楽のスペシャリスト・武久源造氏。
ジルバーマンというドイツのオルガン職人が製作したドイツ最初期のピアノ(フォルテピアノ)。外見はチェンバロとよく似ていますが、鍵盤を押した時に弦を爪状のものではじくのに対し、フォルテピアノは現代のピアノのようにハンマーが弦をたたくことで音を出します。
バッハが活躍していた1730年代、このピアノはまだ開発途上だったそうですが、この楽器の存在がバッハの後期の創作に直接影響を与えたと考えられているそうです。
この貴重な楽器を使用した演奏ということで、発売と同時にチケットを手に入れました。席は中央ブロック上手寄り、前から数列目というお気に入りの位置で聴くことができました。
最初の曲はJ.S.バッハのインヴェンション第1番。
よく知っている曲なので、既に自分の頭の中で音楽が鳴っていたのですが、ステージから響いて来た音は全く予想もしていなかったようなものでした。チェンバロとも現代のピアノとも異なる天から降ってくるような幻想的な音です。とても豊かで繊細な独特の音色。チェンバロのように聞こえるときもあれば、ピアノのように聞こえることも。さらに驚いたことにはまるでハープのような音色が響いて来る時もあるのです。音域によってなのかタッチなのかそれともメカニカルな装置の扱い方によるものか、よくわからないのですが、とにかくこの短い曲の中でカラフルな音色が使い分けられる様は豪華な万華鏡を見ているような気分でした。
フォルテピアノの音色だけではなく、武原氏の演奏もまた色鮮やかで装飾音符の扱いや音色のコントロールの上品さにうっとりしてしまいました。
同じ曲をチェンバロでも弾き比べて下さいましたが、こちらの音色もまた素晴らしくこれはこれで典雅な王宮の音楽といった感じです。どちらがいいかと言われると甲乙はつけられませんが、初めて聴いたこのフォルテピアノの音色は本当に魅惑的でした。
J.S.バッハの二人の息子達の作品が演奏された後、最後はパルティータの第4番ニ長調。いつもはペライアのピアノで聴いている曲ですが、これまたピアノともチェンバロとも違う典雅な美しさがあり、いにしえの王宮に紛れ込んだような気分に浸ることができました。
このジルバーマン・ピアノによるパルティータ全曲録音が最近発売されているようです。これは是非欲しい!
今日は会場の残響もかなり長く調整されていたのでしょうか、本当にきれいによく響く音色でした。
水戸芸術館のホールはこぢんまりとして響きも美しく、室内楽やリサイタル、今日のような古い時代の楽器を用いた演奏会にはうってつけですね。ステージと客席の距離が近いせいか、これだけ残響があるのに音のひとつひとつがクリアに聞こえるのも大好きなところです。
聴きに行くたびにこのホールの素晴らしさを実感します。水戸の自慢です!
お昼の気軽な演奏会ということで、休憩をはさむことなくあっという間の60分。もっともっと聴きたいなあという気持ちを残しながら会場を後にしました。
【追記2015.6.18】
水戸芸のtwitterでアンコール曲が発表されていました。
『本日のアンコールは2曲。J. S. バッハ:パルティータ 第4番 ニ長調 BWV828 より サラバンド、D. スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9 L.413 でした。 』