書き上げてしまった後ですが、「図書館文化史」の参考資料追加です。
古い16mmフィルムをデジタル化してDVDにしたもので、戦後の図書館史を知る鍵となるとなる貴重な2本の映像が入っています。
ひとつは、GHQの占領下教育方面を担当したCIEが製作した『格子なき図書館』。
戦前の日本の典型的な図書館像と新たな図書館法の理念に基づいた民主的で開かれた図書館像を対比して描かれています。
『格子なき図書館』の方は『図書館サービス特論』のスクーリングで見せていただきました。戦前の図書館の姿は知識としては知っていても、文字で読むのと映像で見るのとでは大違い。
開かれた図書館の紹介としては、開架書架で自由に本を手にとる人の姿や、全ての人に本を届けるサービスとして山間の村に移動図書館が廻る様子なども納められています。
ほんの50年前にこういう時代があったとはなんともいえない気持ちになります。
もうひとつの映像『図書館とこどもたち』は、戦後日本の公共図書館のあり方に大きな影響を与えた日野市立図書館の様子を、日本図書館協会が記録に残したもの。
移動図書館の到着を心待ちにし、狭い移動図書館の中でこどもたちが楽しそうに本を手にとっている姿などを見ていると、この時代いかに本が求められていたのかがよくわかります。
付属のブックレットも秀逸で、CIE映画に関する解説やそれをデジタル化するに至った経緯にも触れつつ、戦後の図書館史のポイントが過不足なく解説されているので、司書を志す人には必見ですよ。
Amazonでは中古しか取扱がないようですが、出版元の日本図書館協会のECサイトではカートに入れられるようになっていましたよ。
今回に限らず、レポートを書くにあたり読んでみたいと思った本のほとんどが、古い物も含めて図書館で簡単に手に入ったことは大変ありがたいことでした。
図書館というのは、そのように古くて需要は少なくても、過去を知るのに必要となる資料をきちんと保管しておいてくれるところ。
書店ではいっとき話題になった本でも人々の興味が薄れればさっさと店頭から姿を消してしまいます。
後の時代の人が何かについて知りたい時に、必要な資料を必ず提供するのが図書館の仕事。
古かったり、社史のように通常入手できないような資料で、たとえ自分の館に所蔵していなくても、日本中の図書館からちゃあんと探して取り寄せてくれるのです。
余談ですが、神戸連続殺傷事件を起こした少年Aが書いた『絶歌』の出版が数年前に世を騒がせました。
当時、販売を中止しろ!とか図書館で受け入れるな!とかの声が大きく、購入をやめた図書館も多かったようです。
2015年7月に田井郁久雄さんという方が調査したところ、全国の公共図書館のうち17%しか所蔵していなかったそうです。
市町村立図書館を支える立場である都道府県立図書館では12館。なんと全体の1/4という結果だったそうです。
私の住む自治体についていえば茨城県立図書館には所蔵がなく、県内で所蔵していたのは8館でした(2018.11.15現在、横断検索ネットワークに参加している40館について)。
2015年7月の調査では5館でしたから、あとから寄贈があったりしたのかもしれませんね。
これほど大きな事件ですから、後々この事件について詳しく調べたいと思う人も出てくるでしょう。そのとき加害者本人の著作があるとなれば必ず目を通したくなるはず。
遺族への配慮や若い世代に与える悪影響などに無頓着であってはいけないと思いますが、過剰な自主規制や忖度はいずれ自分たちの首を絞めることになるはず。
いつも利用している水戸市立図書館では、発売当初に所蔵され予約が殺到していました。1冊のみでしたから、順番が廻ってくるまで何年待ち!?という状態だったのを覚えています。
今では貸出しもすっかり落ち着いたのか、開架室に並んでいるのを先日見かけました。
全国の公共図書館が購入を見送ったり、閉架やカウンター別置で館内閲覧のみとか複写制限などの対策をとった中で、過剰反応の世論に流されず図書館の原則通りに提供していることを市民としてとても誇らしく感じています。