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6年前の震災と音楽の思い出

朝日デジタルに連載中の『てんでんこ』
  
2011年の震災をめぐり、様々な人々の思いが綴られています。最近のテーマは『音楽の力』。
  
8月29日からは指揮者の佐渡裕さんがとりあげられています。
  
音楽は無力だ… 号泣した佐渡裕が、独でタクトを振った。というタイトルに惹き付けられました。
  
音楽は無力
  
あのとき多くの芸術家が『芸術なんて何の役にも立たないじゃないか』と悩んだという話はその後よく耳にしました。
  
  

もちろんそんなことはなかった、ということをその後大勢の人が実感したのではないでしょうか。私自身音楽はもともと好きでしたけれど、あの時ほどそのありがたさを実感したことはありませんでした。
  
茨城は東北ほどの被害でなかったとはいえ、数週間の間は大きな余震が続き電気も水もとまったまま。食料品やガソリンも手に入りにくい毎日のなかで情報源としてつけていたNHKラジオからふと流れてきた歌謡曲。
  
Jpopだったか昭和の歌謡曲だったか、特にメッセージ性があるというわけでもない誰もが知っているような曲でしたが、なんだかとてもホッとしたんですよね。
  
普段ならBGMとして聞き流しているはずなのに、その時はとても集中して聴いてしまったのが自分でもちょっと意外なほどでした。
  
もうひとつ忘れられない出来事は震災から2ヶ月ほど経った5月のこと。
私の住む地域では3月中にはライフラインが復旧し、4月から学校も通常通りとそれなりに日常が戻ってきていたのですが、毎年の恒例行事でプロの演奏するピアノを聴く会がありました。地域の人や保護者にも公開されているもので毎年とても楽しみしている行事です。
  
小学校の小さな音楽室にこどもたちは絨毯敷きの床に体育座り、保護者は後ろに並べられたパイプ椅子という普段の授業参観のような雰囲気。プログラムもショパンやベートーヴェン、童謡など親しみやすいものばかりで1時間弱のほのぼのとした会です。
  
最初の曲はベートーヴェンのピアノソナタ『月光』。
  
聞き慣れたその1楽章が静かに流れ出したとき、大袈裟でなく涙がどわっと出てきたんです。自分では気が付いてはいなかったけれど、『私、結構疲れていたんだなあ…』としみじみ感じたものです。
  
あまりにも予想外の身体の反応にびっくりしましたが、『音楽の力』というものを改めて強く認識した出来事でした。
  
  
音楽に限らず、経済効率の観点では真っ先に切り捨てられがちな芸術や文学。何事もないときにはそのありがたさにあまり気付くこともありませんが、本当に生きる支えになるのは芸術の力ではないかなあと思うのです。

  
  

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