コロナ後の欧米と日本の物価の動きがなぜにこんなに違うのか? と頭ぐるぐるな昨今。タイムリーなタイトルと2022年1月出版という新しさにひかれ手にとってみたよ。
今回のコロナ禍が織り込まれているというのがポイント。
前半は「物価とはなんぞや?」という基本的な説明。
いつも不思議に思っていた物価目標(日本ではずーっと達成できなかった「2%」)の数字ってなんなん?ということもわかりやすい説明がありました。
貨幣の供給量や中央銀行の役割などは、経済学を学んだ方にとっては基本的すぎるかもしれないけど、私にはいちいち「なるほど〜」です。
かつてアルゼンチンやブラジルなどの新興国で起きたハイパーインフレの背景や、日本ではなぜ長期に渡ってデフレから抜け出せないのか、世代や国によって物価に対する考え方が異なっているという調査結果などは大変興味深く読みました。
なかでも興味深かったのは、日本特有の物価の動きについて。
バブルで株価がうなぎのぼりの時代にも、はたまた崩壊後の暗黒時代にも意外なほど(と元日銀マンがおっしゃっているのよ)物価が動いていないこと。大規模金融緩和(ゼロ金利政策)を行なってもほとんど物価に影響が出ないままなのはなぜなのか。
シャンプーやキットカットという私たちに身近な商品を例にして、このデフレ時代に企業がどのような価格決定方法をとってきたのかや、アベノミクスで物価が上昇すると踏んで値上げに踏み切った鳥貴族の経営失敗の話。
そして『デフレはなぜ怖いのか』という話がとても印象的でした。
私たち庶民にとっては物の値段が緩やかに下がっていくぶんにはありがたいと思うのだけど、国全体の経済を長い目で見るとそうではないのだね。
長年にわたりFRB議長を務めたグリーンスパン氏が、「日本のようなデフレになると何が困るのか」とアメリカ国民に説いた際に使った「価格支配力」の話。
デフレが定着した社会では、商品価格を少しでも値上げすると消費者に逃げられることを恐れて企業は原価の上昇さえも転嫁できなくなる。
商品開発や設備投資などにより新たな良い製品を作っても投資資金を回収できないとなれば、商品開発はせずに目先のコストカットにばかり目が向く。もはや企業は活力を失い経済全体が失速….。
デフレ下では企業の価格支配力が下がり活動がどんどん後ろ向きになってしまう、というのが最もおそるべき
あら〜、これって今の日本の状況そのものじゃない!?
バブルの頃は、まったくお金にならない研究に企業がこぞって参戦。まるで大学のような基礎研究合戦だったんだよね。その果実がその後のノーベル賞続出を生んだのだと思うし、トップ研究のおこぼれが民生品の性能向上に多いに寄与していたはず。
その後基礎研究に人やお金をかけられなくなって企業はひたすらコストカットで経営をしのぐようになっちゃった。その結果、目先は新しくても実はこっそり品質を下げたり内容量をちょびっと減らすステルス値上げな製品ばかり。
消費者の方も「重箱の隅をつつくような小手先の性能アップするくらいなら現状維持で価格を下げてよ!」って感じで、見た目がシンプルでおしゃれならいいじゃな〜い、のライフスタイルが主流です。
ニトリや100円ショップのシンプルで小洒落た商品が大人気で、多少値が張っても長持ちする高品質な商品が消え、GAFAMのようなあっと驚くような商品やサービスが生まれない、原料が値上げされているのに価格転嫁さえも非難轟々で従業員の賃金も上がらない今の日本の姿が、グリーンスパン氏言うところのデフレの恐ろしさってことだったのね。
ってか、日本の経済のプロフェッショナルも当然わかっていたとは思うのよ。ゆるゆるまったりな日本人の気質なのかなあ。西洋で生まれた理論とはどうも振る舞いが違うようですね。
最後の方まで読み進むと、デフレにしてもインフレにしてもずるずる長引かせず短期間で叩き潰さないといけないというのが少しずつわかってきます。
いやはや、経済って生き物みたいで面白いなあ。
学生の頃から一番苦手だった経済分野なので、多分高校の教科書に載っていたであろうことさえもあやふやな素人には難しい部分も多かったのですが、自分の知っている出来事や時代を題材にしての解説は興味を惹かれる部分も多く、いろいろと考えさせられました。
値上げの嵐に翻弄される消費者としても、企業のチャレンジを縮こませるような態度はできるだけ控えねばならんよね…とも思いましたわ。
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