タイトルを見て『我家のために書いてくれたの!?とばかりに、あわてて図書館で借りてきました。
『ここ数年売上ががくっと落ちてきた53才(執筆時)の自営業女性が老後のお金の心配事に向き合う』
という内容ではありますが、Amazonでレビューが賛否まっぷたつに分かれています。
この手のものは読む人の立場によって捉え方は大きく異なりますからね。
私の評価は半々かなあ。
税制や年金の仕組み、家を建てるためのローンを容易に組めないなど自営業者が知っておくべきお金関係の基本的な解説はきちんとしているので、そのあたりの知識を得たい人にとっては良い本だと思います。
正直いうと、結婚したばかりの自営業初心者の頃にこういう本を読んでおきたかったですね。
世に溢れている節税や老後のお金の話はほとんどが会社員向けで、自営業者(特に個人事業主)向けのものはなかなかお目にかからない。
特に老後の資金に関しては、会社員夫+専業主婦(パート)+子ども2人という昭和の典型的パターン。また若い方向けだと夫婦共働き+子どもはいても1人という家族向けばかり。
マネー雑誌や女性誌の家計指南記事でも、我家のように夫婦で細々と商売しながら子どもは大学まで出したい!という家庭向けのガイドはほとんどありません。
ですからこの本についても解説部分については分かりやすくまとまっていてオススメ。
ただし、例としてあげられるケースはけっこう特殊なパターンばかりかも。
都会ではこういうパターンも多いのかもしれませんが、『自営業者の53歳女性』と言われて思い浮かぶのはちょっと違うのでは?という印象です。
まず筆者は旦那さんが会社員で子どものいないフリーランスのイラストレーター。
若い頃は相当稼いでいたにも関わらず確定申告がいい加減で税金に対する感覚が無頓着過ぎ。
また国民年金を払っていなかった..というのは自営業者にはアルアルですが、年収が1/3に激減してからでも10年分を一括払いできるだけの資金があったり不動産投資をしようと目論むあたり、社会の片隅でちんまりと商売をする個人事業主とは金銭感覚がちがうかも。
一方、きちんと備えているフリーランス代表として登場する36歳女性の例もまた極端。
実在するのか実は仮想の人物なのかはわかりませんが、夫が会社員で2人の子どもがいるデザイナーさん。
小規模共済(自営業者特有の退職金的な制度)、確定拠出年金、貯蓄型生命保険、養老保険、積立投信、書いてはありませんが当然国民年金も払っているでしょうから、年間300万円以上を老後資金として貯蓄!。
しかも流動性がなく、60歳にならないと引き出せないものばかり。投資信託だけはそんなことないけれど積立ってことは簡単に現金化するつもりのない資金と思われます。
生活費や子どもの教育資金は全て夫の収入でまかない、自分の収入を全て老後の蓄えにしているのかな?
この小規模共済と確定拠出年金は全額控除になるので節税効果は高いのですが気をつけなくてはいけないことがあります。
現時点で売上があっても、これを真に受けて流動性の低い年金的な貯蓄を目一杯やってしまうと、いざというとき大変なことに。
売上が下がっても事務所の家賃や光熱費など固定費は毎月出て行くので、普通預金や期日の短い定期預金などで運転資金は十分確保しておかないと。
それから、そもそも所得金額がたいしたことのない我家のような場合、控除後の課税対象所得がマイナスになってしまうために節税なんて関係なくなってしまうのよ。
だからこの制度を使うにしても自分の収入(売上)とよーく相談して、はじめは毎月1万円だけで様子を見るとかね。
この本に書かれているケースでかろうじて我家に近いなあと感じたのは、途中のコラムに出てくる2人の高齢女性の例。
夫と建築業を営んでいた83歳女性と、やはり夫婦で小さな鉄工所を営んでいる70代夫婦。
老後の蓄えなんて意識することなく国民年金だけは義務として払い続け、老後は細々と商売を続けたり有償ボランティアで慎ましい老後を過ごしています。
ひとくちに自営業と言っても、商店経営・開業医・従業員が大勢いる会社の経営者・作家やイラストレータ・士業などなど、数えきれない程のケースがあるので、自分に合った老後への備えを考えるのはなかなか難しい。
こういう本にありがちなのですが、『老後の備え』など不安をあおって、お得な制度は使わなきゃソンソン♪的な『所得控除』『節税』などのワードが交互に差し出されるんですよね。
読んでいるうちに『わー大変!私もやらなきゃ!』と踊らされがちなので注意が必要。
公的ガイドブックなど感情的な表現ができるだけ入っていない資料を良く調べ、自分のケースについて冷静に判断することが大事かと思います。
ひとつだけ『そのとおり!』と思うのは、自営業者の仕事は山あり谷ありってこと。
『自分バブル』のことば通り、ある時期ガーッと収入があったとしてもいつまでも続くわけではなく、時代の流れや世の中の景気に大きく左右され、担当者も若い人に変わっていく。
自分の仕事の流れをいつも謙虚に注意深く見つめ、変化に柔軟に対応していく心構えが本当に大切なんですよね。