久々に本を読んで深い感動を味わいました。
戦後の日本に世界一流のバレエダンサーや歌劇団を招聘するためにどれほどの苦労があったのか。
そして、その実現のためにこれほどまでも情熱と信念に突き動かされていた人がいたのだということ。
この本は1933年(昭和8年)生まれの佐々木忠次という凄腕の興行師の生涯を綴った伝記です。
エピソードのひとつひとつがとにかく凄い。
もちろんこのような尖った方には敵も味方も多かったのでしょうが、とにかく世界のビッグネームと関わりが次から次から出てくるのです。
特に私の世代にとっては垂涎もののアーティストばかり。
学生の頃、高嶺の花だった公演のほとんどがこの人の手によるものだったとは本当に驚きです。
凡人には想像もつかないような確かな目とカンに加え、決して決してあきらめない粘り強さのおかげで、今の私たちが世界一流の舞台芸術に触れるられているのだと感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。
様々なエピソードが書かれているのですが、日本のお役人達がいかに芸術への理解がなかったかという話も大変印象的。
パリオペラ座が外国のバレエ団に初めて公演の門戸を開いたのが、佐々木忠次率いる東京バレエ団だったことも初めて知りましたが、それほどまでの栄誉に対して現地の日本大使館からは何の反応もなかったこと。
同じイベントに参加するヨーロッパの他の国は、自国の駐在大使どころかお国の王族方が国境を越えてお出ましになるほどのビッグイベントだというのに、日本大使館は主催団体からの要請事項さえもまったく無視。
『どうなっているんだ?』と主催者に訊ねられた佐々木さんが本当に恥ずかしく情けない思いをしたというエピソードも….。
余談ですが、1997年に鳴りもの入でオープンした新国立劇場が『国立』な割ににパッとしないなあと感じていたのですが、その理由というのも文化芸術をまったく理解しない政治家と役人主導でこねくりまわされた結果だったいうのも、この本の中のエピソードを読んでいるとよくわかります。
文化芸術に予算がつかないのは国レベルだけではなく、私の住む自治体でも全く同じ。
効果を数字で表せないものや腹を満たさないものにはお金を出さない。仮にお金を出したとしても、わかりもしないことに口を出しまくり….とかね。
日本は経済的には世界でも指折りの大国になったというのに、文化芸術面はお粗末なままなんだねえ。