古書でしか流通していないけれど、多くの公共図書館や大学図書館に所蔵あり。
編者の清水正三氏は1918年(大正7年)生まれで1938年より東京市立図書館(日本橋、深川、日比谷)に勤務され、その後館長まで勤め上げた後は大学で教鞭をとられたそうです。
この本の出版は1977年。今私の手元にあるのは1985年に再出版されたもの。
戦前から戦後を通して図書館に勤務した清水氏が、図書館の倉庫から戦前の資料を見つけ出したことをきっかけにしてまとめたもので、裏表紙には次のようなコピーがあります。
■民衆の理性と文化の砦であるべき図書館が、“戦争”という人間のもっとも野蛮な所業に直面した時、いかなる変質をとげざるを得なかったか!
■本書は、戦争と平和をめぐる極限状況のなかで生きた図書館人たちの苦悩と抵抗のドラマであり、同時に、新たに発掘された資料をもとに、はじめてまとめられた「昭和図書館史」でもある。
日本の図書館高度成長期であった1965〜1970年代、戦前の図書館を知る先輩から若い図書館員へ向けた熱いメッセージとして編まれたものですね。
前半は大正〜昭和初期の日本の図書館史。清水氏の記憶や思い出を絡めながらの大変生々しい記録。
後半は昭和6〜10年の新聞・雑誌からスクラップされていた資料と年表。小さな文字の二段組みという体裁にちょっと怯むけれど、旧字・旧仮名遣いは現代仮名遣いに改められているのがありがたいです。
図書館史の勉強をした時に知識としては得ていましたが、このように当時の記事をそのまま読めるのはなんとも痺れます。
左翼思想への弾圧っぷりとかは戦時中を舞台にしたドラマなどで知られている通り、というかそれ以上。大学図書館の研究用資料さえもどんどん排除されて、誰がどんな本を借りたかなんかも筒抜け。
しかも極端な左翼思想だけを検閲するというわけでなく、子ども向けの本から何からお上が「ヨシ」とするフィルターを通してから下々の者に与えるのが当たり前という空気が本当に気持ち悪い。
庶民が読むような新聞にサラッとそんな記事が載っているのを見ると「ちょ、ちょっと待ってよ」って感じ。
この普及版への序文として、編集担当委員のおひとりである国立国会図書館員(当時)の方が次のような言葉を寄せていらっしゃいます。
戦争が近づけば必ず自由が遠のく。これは社会的原理である。自由を守るために、毎日の仕事の中で、このことを忘れずにいたいと思う。
当時を知る人が「図書館界への戦争責任の追及がなかったのは大変残念」と言うほどの図書館暗黒時代を伝えてくれる1冊。
私が図書館史や『図書館の自由』についてのレポートを書く時には参考資料として引っかかってこなかったのだけど、司書の勉強には必読書だと思うわ。
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