こんな講演を聴いてきました。
水戸芸術館の初代館長を務められた音楽評論家吉田秀和氏が逝去されて10年。
事務局長時代から深い関わりのある大津副館長と、晩年の吉田さんを担当していた「レコード芸術」編集者の田中基裕さんのトークを聞きながら、エピソードと関連した楽曲をATMホールで味わうという珍しい企画でした。。
一番初めに流れたのは懐かしきベーム指揮のブラ2。学生の頃によく聴いていたので当時の空気が蘇ってきてグッときたわあ。
庄司紗矢香さんのディスクの紹介では、これを聴き終えた吉田氏が『天才だ!』と大声で叫んだ話なんかも飛び出したり。
田中さんはいつもカメラを携えて吉田邸を訪れていたそうで、吉田秀和特集のムック本に掲載されていた写真の多くは田中さんが撮影されたものだそう。
逝去された半年後に、そのムック本に追悼原稿などを加えて出版されたこちらの1冊は私も大切に持っています。
掲載されている写真を使いながら大津さんとお二人で当時の思い出などをたくさん語ってくださいました。ひとつひとつのエピソードを聞くにつけ、吉田さんの存在の偉大さを改めて噛み締めたよ。
大変な読書家ではあるけれど家には本をたくさん置いておかない主義だったそうで、何度も繰り返し読む本だけが厳選されて少しだけ棚に置いてあったのだそう。写真には年季の入った杜甫・李白・白居易、漱石・鴎外・川端康成の全集などが並んでいるのが見えますが、最近の雑多な本は見当たりません。
その一方で、廊下の壁一面に並んだ大量のCDの写真は圧巻。ご自分のルールに沿ってきっちりと整理されていたそうですよ。
CDは離れのオーディオルームにもたくさん置いてあったそうですが、オーディオシステムといったものにはこだわりがなく、畳の上に無造作に置かれた再生装置の写真は高名な音楽評論家のリスニングルームとは思えない風景!「音楽そのもの」を生活の中で聴くことがお好きだったみたいです。
96歳で無くなる前日に田中さんが受け取ったという「之を楽しむ者に如かず」の手書き原稿を受け取った際のエピソードがちょっと切ない。
なぜか普段より早めのタイミングで連絡をもらって受け取った原稿。予定のテーマからちょっとずれていたのだけれど、その文章を通じて「自分の認識の浅さを叱られたような気がした」のだそう。最後に何か大きなものを手渡されたのでしょうかね、とても印象的なエピソードでした。
NHK-FMで長いこと続いていた『名曲の楽しみ』での吉田さんの独特の物言いが好きでした。余計な言葉で飾らないストレートさのなかに、気骨や優しが溢れていてね。
上述のムック本では、白石深雪さんによるロングインタビューやレコ芸に掲載されたインタビュー記事、受賞記念でのスピーチなどが掲載されていて、読み返すたびに稀有な知識人を失った無念さのようなものが心に湧いてきます。
吉田節を味わいたくなった時に開くのがこちらの1冊。
館長に就任していただくために力を尽くされた、当時の佐川一信水戸市長に感謝したくなるエピソードがいっぱいのこの本も大好き。
懐かしさと切なさでいっぱいになってしまった昨日の余韻を引きずっている本日、久々に聴いているのはリヒテルの平均律。
#50代の日常
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