著者は50歳で朝日新聞を退社したアフロヘアの稲垣えみ子さん。退職する前にテレビでお見かけして『朝日にもこんなぶっ飛んだ人がいるんだなあ』と思ったのが第一印象。
朝日を退社したことや、福島第一原発事故をきっかけに電気を使わない生活を実践していることなど、同世代の女性としてかなり気になる存在でした。
退職後に何冊か本が出版されていたので読んでみようかと、図書館にあるものを予約して待っていました。まず最初に手元にやってきたのがこちらの本です。かつて朝日新聞で連載されていた『ザ・コラム』『葦』『社説余滴』をまとめたものに、退社後の書き下ろしを加え書籍化。
ところが、この本の感想を書こうと思って彼女のプロフィールをググったとたん目に入ったこちらのAERAの記事。『稲垣えみ子「『図書館で借りて読みました!』、私の本を読んでいただいたのはありがたいのだが……』
講演先の担当者が手にしていた稲垣さんの著書が、図書館で借りたものだったことに大層ショックを受け、翻って自分のお金の使い方を考えたという話。そのコラムの中で私が引っかかった言葉を部分的に抜粋してみました。
こんなことは初めてで、予期せぬ光景に私、思いもよらぬほど動揺してしまいました。
あなたが懸命に作ったものを当然のようにタダで持っていく人がいたらどう思いますか。自分にはそんなにも価値がないのかと傷つきませんか。
得をした自分の反対側には確実に損をしている人がいる。そして気づけば自分がいつの間にかその損をする側に回っていた。これを因果応報という。
その担当者がどのような理由で図書館の本を持ってきたのかは分かりません。もしかしたら『うちの図書館にも蔵書してあるんですよ♪』というアピールかもしれないし、『稲垣さんのミニマリストな生き方に共感して、私もモノは買わないんです』ということなのかもしれない。
一応、講演者との打合せをするために大量の付箋をつけてくるくらいなら借りるんじゃなくて買ったら?とは思いましたけどね。
が、彼女が批判しているポイントは「講演をお願いした著者に会う礼儀として」ということではなくて、「自分が一生懸命書いたものを金を払わずにタダで読む奴がいることで私は損をした。」ということらしいんです。
せっかく書いた本を買ってもらえないとがっかりする気持ちはわかりますが、何もそのせいでタダ働きになったわけではないよね。原稿料は生じているでしょうし、その本を書いたことで講演やテレビの仕事も入ってくるのよね。
最後に「自分が送料無料サービスを利用することも、見知らぬ誰かに損をさせている。」という、著作物タダ乗り論とは関係のない自分の行動を顧みる言葉でオブラートに包んでいるのも、上手に批判をかわそうとしている感じがしてちょっとがっかり。
稲垣さんは読みたいものは全部買うのか?。そしたら狭いマンションは本でいっぱいになっちゃうよ。年間の書籍費は節約した生活費をはるかに上回っちゃわない?
まあそれはどこにも語られていないのでいいとして…。
『借りて読んだ人数 X 1冊あたりの印税』が彼女の損になるのか?そこは違うと思うんですよね。入ってくるはずだったかもしれないけど、損はしていないでしょ。膨大に売れ残れば、原稿料を前払いした上に印刷・製本・在庫させている出版社は損を被るかもしれないけど。
私も図書館で借りて読んだひとりですが、図書館になかったら買ってまでは読まなかったと思うので、借りたから稲垣さんに損をさせたワケではないと思いますよ。スペース的にも経済的にも制約があるのでお金を払って手元に置くのは好きな作家や音楽家の著作物だけです。
これまで心のどこかで彼女に期待するところがあったし、『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』という本も内容的には好意的な感想をもったので、今朝いきなりネットでこんな文章を目にして
思いもよらぬほど動揺してしまいました。顔を殴られたような感じがしたのです。