自身のお子さんの成長を脳研究の視点でとらえています。
悪く言えば自分の子どもで実験しちゃってるのね、ということですが、娘さんへの愛情とメロメロパパっぷりが文章からあふれる程伝わってくるのでとても楽しく読めました。
自分が赤ちゃんを育てている間は何気なく通過してしまった様々なことが、実は脳の働きとしてはとてつもない大事件だったのですね。
うそをついたりイヤイヤしたり、何でも自分でやりたがっっ癇癪を起こしたり、親にとってはイライラするようなことも脳の大事な成長プロセスだということがよくわかります。
もっと早く知っていたらなあ…という気持ちにもなりますが育児ストレスまっただ中にこんなこと脇で冷静に語られたら余計に『キーーー!!!』ってなっちゃうかも。
そして乳幼児期の子どもにこのように距離を置いて観察することができるのは、『研究者』という点を差し引いたとしてもお父さんという立場ならではかしらね。
母性と父性の違いなのかな、ちょっと引いた視線で子どもを観察の対象として見るというのは母親には難しいと感じます。
本の構成としては娘さんが生まれてから4歳の誕生日を迎えるまでの様子がひと月ごとにまとめられており、どういうことができるようになったとか、自分が親としてどうふるまっていたかの観察記録的なもの。
母子手帳に載っているような標準的な発達過程と子どもさんの成長記録も併記してあるので、そのあたりは子育て真っ最中の方の参考になるかもしれません。
幼児期の子育てが終わってしまった私にとって面白かったのは、むしろその記録の後に挟まっているコラムのほうでした。
成長記録部分3ヶ月ごとに『もっと詳しく!大人の脳育ちコラム』と題された結構なボリュームの文章が挟まっています。
・読字障害とIQ
・才能って、遺伝や環境でどこまで決まるの?
・しつけの分岐点、「ほめる」と「しかる」
・氾濫する「早期教育」の真実
・脳の目覚ましい学習
…..
など子育て中に気になるあれこれが最新の研究結果をもとに科学的に解説されていて、参考文献も紹介されているところはさすが研究者さん。
子育ての渦中にある世の中のお母さんたちが頭でっかちになるのも良くないとは思いますが、子育ての方針に迷ったとき、実験から得られた裏付けがあると思えばちょっと安心できたり自信が持てたりするもの。
私にとっては通り過ぎてしまったことがほとんどなので『こんなことあったなあ〜』と懐かしく感じたり、はたまた自分がやってきたことを反省したり、これでよかったんだと確認したり。
小さな子を育てる場面だけでなくても参考になる部分があったので書いておきます。
『ほめる』という行動について。
行為を『えらいね』『上手だね』などといった直接的な言葉で褒めるのではなく、結果についての感想を述べるのがベターなのだそう。
同じようなことが平行して読んでいる別の本の中にも書いてあったので、ちょっと驚きました。
『認知的不協和』という言葉がキーワードのようですが本書の中ではあまり詳しい解説はなく、子どもや研究室の学生への声かけはこんな風にしています…的なことがサラッと書いてある程度でした。
アメリカ流なのか、ちょっとしたことでも大袈裟に子どもを褒めるのが最近の主流なようですが、これにはお尻がむずむずするような違和感をずっと持ってました。
我家のこどもたちもやみくもに『すごいね!』『えらいね〜』などととよその人から言われるのが嫌い。
その理由がこの『認知的不協和』にあるのかしらと感じた次第です。
もうひとつ気になったのが『虐待』について。
被養育者(多くは幼児)は育児放棄の気配を察すると、より積極的にその養育者に愛着を示すようなプログラムが仕組まれているのだということ。
これは『トラウマボンディング』といって、動物の本能に組み込まれた生き残りのための生存戦略なのだそうです。
このプログラムが動き出すと子どもは虐待する養育者を避けるどころかますます笑顔で寄っていくので、虐待する親は自分の過失に気づきにくい。
どんなに酷い目に遭っても『大好きなお母さんとはなれたくない!』と引き離されるのを拒む子どもが多いと聞きます。
動物の本能に根っこがあるのだとしたらそこは心を鬼にしてでも行政は引き離して子どもを保護しなくてはなりませんね。
ちなみに『虐待を受けた子は、将来、虐待する親になる』という世代間連鎖については、現在では統計学的に否定されているそうです。
この通説はよく聞くのですがそのような研究結果もあったのかな?
いずれにしても思い込みで軽々しく判断しないよう気をつけたいと思います。