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片山杜秀『クラシックの核心』【読書メモ】

その博識ぶりとストレートな話っぷりが魅力的な片山杜秀さん。
  
NHKFMの『クラシックの迷宮』が私の聞きづらい時間に移動してしまってからというもの、そのお声に触れる機会がなくて寂しい想いをしております。
  
氏の面白さを著作で味わおうと今までに何冊か手をだしているのですが、あの複雑な発想を文字で追うのはやはり難解でどれもこれもギブアップ。
  
思想書ジャンルというせいもあるし、たとえ音楽をテーマにしたものでも結局は作曲された時代・社会背景が絡んでくるしね…。
  
大好きな片山節といえども聞くと読むとは大違いなのだわ。
  
  
そんな中でも、どっぷりと音楽論だけの1冊がこちら。
  


  
河出書房の『文藝別冊』という雑誌で西洋クラシック音楽史上の人物を取り上げた際に、片山氏が談話の形で語ったものを編集者が原稿に書き起こし掲載したものだそうです。
  
事前の打ち合わせなしで進められるインタビューということですから、即興的にぽんぽん飛び出す片山節を存分に味わえます。
  
それら9回分を加筆修正して纏めたものがこの本ということで、編集者の書き起こしもお上手なのかとても読みやすく面白いんです。
  
取り上げられている人物は
・ バッハ
・ モーツァルト
・ ショパン
・ ワーグナー
・ マーラー
・ フルトヴェングラー
・ カラヤン
・ カルロス・クライバー
・ グレン・グールド
  
という超メジャーなラインナップ
  
バッハやモーツァルト、ショパンなど音楽の教科書に登場するような作曲家に加え、既に他界し世間の見方がある程度定まった演奏家ばかりです。
  
現代音楽や日本の音楽家についての評論を主としている片山氏がここまでメジャーな人物について語るなんて滅多にないこと。
  
自分の中にすっかりイメージが出来上がっている人物について、『そういう捉え方もあるんだ!』と気づかされることがたくさんありました。
  
  
例えばバッハを『大衆を友にする作曲家』と称し、耳の肥えた王族・貴族よりむしろ街の教会のミサで大衆に聴かせるための音楽、なじみやすい旋律をフーガやカノンといった方法で合唱や合奏の形で提供しているのだというのです。
  
主旋律&伴奏、ではなく全ての旋律が主役になる広い意味での対位法、つまり主役のいない対等なもの同志の絡み合いの世界が『民主平等の平民的世界の理想像』に通じてくるのだと。
  
やはりこのような見方は思想家ならではでしょうか。
  
  
他にもマーラーとは『大スクリーンで観ないと真価の感じられない大スペクタクル映画みたいなもの』という書き方も思わず膝を打ってしまいました。
  
盛りだくさんの要素を精緻で複雑にしかも『これでもか!』というほどてんこ盛りにした音楽は貧弱な録音・再生装置ではその真価が味わえない。
  
音色の多様さやダイナミックレンジの広さを味わえるだけの『高解像度』機器の発達した時代だからこそマーラーの価値が認識され人気が高まったのだ、というのも『なるほど〜』。
  
確かに、私が初めて『マーラーってスゴイ!』と思ったのは、秋葉原のオーディオショップで試聴用CDの中からマーラーの5番をかけて貰った時。

それまでラジカセから流れるラジオ放送でしか聴いたことのなかった私にとって、お店の広い空間で大音量で聴いたあの冒頭のトランペットソロとそれに続くオケのtuttiがとてもとても衝撃的だったことを思い出しました。
  
  
その他にもなぜカラヤンがあんなに人気者だったのかやグールドが人前での演奏会から遠ざかり録音を残すことに執着した件など、多くの評論家もいろいろと書いてはいますが『そこまではっきり言い切るのはちょとね…』と思っているに違いないようなことを、ズバズバと言ってのけてしまうところがとても気持ちよいの。
  
なんというか、読む人におもねらず、他人からの評価など気にしないジコチュー音楽評論ぶりが私は大好き。
  
  
この本の中の『ショパン』は、以前たまたま購入した2014年発行の『文藝別冊「ショパン」』に掲載されたオリジナルを読んでいたことに昨夜気が付きました。
  
このときのこと、ブログにも書いていましたね。
『河村尚子ショパンプロジェクト』(2018.11.8)
  
2013年に始まった『クラシックの迷宮』を聴き始めてから「面白い人がいるな〜」と気になり始め、このインタビュー記事を読んでぐぐっとファンになってしまったのが2014年の末。
  
以来ずっと気になる評論家。
  
いつか水戸芸術館の館長になってくれたらなあ…と日々密かに念じています。

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