40年前に書かれた高校教師の随筆【読書メモ】
あるブログで紹介されていた本。
安保闘争、被差別部落や在日朝鮮人への差別といった、その時代や土地柄独特の話題を絡めて著者の思想が綴られています。
著者は幼少期の事故がもとで片足を失っているのですが、その痛みや不自由さについて嘆きや恨みつらみはありません。自分の我慢強さや努力で対処できることだからです。
それよりもむしろ、両親や姉が受け止めていたであろう辛さ、障害に対する世の中の処遇に向き合う苦難について多く述べています。
自分がこの世の中にいる意味を考え執拗に問い続けることの方が著者にとって辛いものであったのです。
自分の置かれたどうしようもない状況の中でどのように自己を保ち生きて行くのか。
そのような自らへの問いは、高校の教え子たちへも向けられます。
被差別部落や在日朝鮮人家庭の子弟も通学しているその学校で、そのような仲間の存在を正面から見つめようとしない高校生たちに『君たちは本当に生きているのか!』と憤る様子が私にとっては大変印象深い部分でした。
ちょうどその時代に自分も高校生だったわけですが、当時の私は何を考えて生きていたかなあ…。
精神年齢の高い級友に混じりながら頭でっかちな議論をしたこともあったかもしれませんが、どちらかといえば著者が嘆いているようなふがいない高校生だったと思います。
『坂道にて』では、教師である奥様と共働きをしながら3人の子どもを育てる様子が描かれているのですが、男性が奥さんと同列に家事・育児をすることが非常に珍しかった時代にどのような心持ちでいたのかは興味深いものがありました。
いくつかの媒体に掲載された随筆を1冊にまとめられたものなので、同じような内容が重複してクドく感じられる部分もありますが、理不尽な社会と闘う熱い心持ちは全編を通じて感じられるところです。